皆さま、こんにちは!どんな師走をお過ごしでしょうか?
私は先日、人生何度目かのぎっくり腰をやってしまい、腰ベルトを巻きながらこれを書いております。
今回で連載は最終回!
最後にご紹介しますのは、マスク(仮面)劇の世界です。
今年、世界中の人々がマスクを着用するはめになりましたが、そっちのマスクではなく、シアターのための特別なマスクです。
どうぞお楽しみくださいませ。
目次
演者の身体表現によって、物語を変化させ魅せる「マスク劇」
私が初めてマスク劇に触れたのは、アメリカのフリンジ・フェスティバル(演劇祭)でした。
冴えない中年の男が、ある夜、お月さまに恋をしてしまう。
WONDERHEADSによる「LOON」というこの作品は、それは美しいソロ・マスク劇で、その年のアワードを総舐めにしました。
このようなフルフェイスのマスク劇は無言劇であることが多く、身体表現がとても重要なフィジカル・シアターの一種でもあります。
俳優の顔と声が封印される代わりに、身体の繊細な動きや「間」のような要素によって、役柄の心情や性格、物語のすべてを表現していくものです。
マスクは人間の顔の場合もあれば人間以外の場合もありますが、もちろんその造形は基本的には変化しません。
しかしながら、演者の身体表現によって、マスクの表情が生き生きと変化しているように「見える」、それがまさにマスクの魅力なのです。
即興で創り上げる喜劇「コメディア・デラルテ」
マスクの世界で有名なのは、イタリア発祥のコメディア・デラルテ(Commedia dell'arte)です。
16世紀に始まったというイタリアの伝統的な演劇スタイルで、元々は即興で繰り広げる喜劇です。
下の画像のように、顔の上半分がマスクで口元は見えており、セリフを喋ったり声を出したりもします。
マスクによってそれぞれの登場人物の役割が決まっており、職業や性格や関係性などのルールに基づいて即興の喜劇が創られます。
私がアメリカで観たコメディア・デラルテ作品には、即興でなく脚本のあるものもありました。
アメリカにもコメディア・デラルテの学校があり、そこで学んだ俳優たちが北米で数多く活躍しています。
身体能力の高いひとたちが多く、何度も驚かされたものです。
長年やっているフィジカル・シアターも、人形などの造形も好きな私。
これはぜひともマスクに挑戦してみたい!と創ったのが、2019年の小心ズの作品「The Gardener」です。
この作品ではいくつものタイプの異なる人形に加えて、マスクのおじいさんも登場しました。大きなおじいさんなので「おおじいさん」と呼んでいます。
このマスクは張子(はりこ=和紙などを何層にも貼っていく方法)で作りました。
人生初のマスク製作は思った以上に難しく、ものすごく手間と時間がかかりましたが、それだけに完成した時の喜びはひとしおでした。
小心ズの創作の可能性を大きく広げたマスク劇
おおじいさんが動くと、こんな感じです。
この役は小心ズの相方、ケンノスキーが演じています。
続いて今年(2020年)創ったのがミミズクの親子のマスクです。
人間以外のマスクも作ってみたいと思い、ミミズクを選んでみました。
このマスクは羊毛フェルトで作りましたが、製作期間は家じゅうに羊の毛がこまかく舞っており、くしゃみが止まらず困りました。
もう一つの羊毛フェルト製マスクがこちら。
このご婦人は、とある方をモデルに作ったのですが、これがまたそっくりなのです!
我ながら良いマスクができたので、とてもうれしかったです。
ほんのわずかな身体の動き、首の傾げかた、手指の動きなどにより、マスクの表情は驚くほど変化して見えます。
また、ことばがないからこそ、観客は自由に想像をしながら登場人物の置かれた状況や心情を見つめることになります。
羊毛フェルトを使った製作は2019年の「The Gardener」から始めたのですが、自分にはとても向いているようで、人形と併せてマスクの製作も続けたいと思っています。
羊毛フェルトならではのやわらかさや繊細さが、私の創作の可能性をぐーんと拡げてくれました。
また会いましょう!Love and beeer!
およそ半年にわたり、小心ズの活動と世界の演劇のあれこれをご紹介してまいりました。
お読みくださった皆さま、ほんとうにありがとうございました。
演劇や劇場になじみのない方もまだ多くいらっしゃることと思います。
もしこのコラムがきっかけとなり、あなたがいつの日か劇場に足を運んでくださるとしたら、最高にうれしく思います。
そしてこの未曾有の事態のなか、世界中の舞台芸術がなんとか生き延びて、新たな進化を遂げることを願ってやみません。
またいつか、シアターでお会いしましょう。
あなたのそばに、いつも明るい笑いがありますように。
笑顔の花が咲きますように。
Love and beeer!