皆さまこんにちは!
尊敬する手話指導の女性から鉢植えのバジルをいただき、大事に育てているヤノミです。
バジル大好き。
今回は北米ツアーでのホームステイ先で起こったいろんなエピソードなどをお話ししてまいります。
演劇と関係ないようにも思われるかもしれませんが、ツアーアーティストが異国の地を転々としながらどのような暮らしをして来たか、想像しながらお読みいただければと思います。
日本では考えられない「ビレット」の魅力
さて、北米フリンジにはツアーアーティストにホームステイ先を斡旋するシステムがあり、それらの家や家主は「billet ビレット」と呼ばれます。
身体ひとつで長期ツアーを走り続ける私たちツアーアーティストたちにとっての、まさしく命綱。
2015年にオーランドのビレットに初めて到着した時には、家主が仕事で不在のため、あらかじめ鍵のありかを教えてもらっていました。(まず、見知らぬ他人の家に初めてお邪魔する時に、その家主が不在という時点で、日本では考えらえれないことだと思います。でもこんなことは何度もありました。)
さて、教えられた場所に鍵を見つけたのはいいのですが、玄関のドアがどうしても開かない……。
あれこれ画策した結果、鍵の開いていた窓から家に入り、内側から玄関を開けたのでした。
……泥棒か。
ビレットの斡旋前にはあらかじめ細かい条件を提出し、フリンジ事務局がマッチングを行います。
✓ペットがいてもいい?
✓ほかの人と同室でもいい?
✓子どもがいてもいい?
✓喫煙?禁煙?
✓男性(女性)ホストでもいい?
私は犬猫など動物もOKという条件でビレットを斡旋してもらうため、いろいろな動物たちとも暮らしました。
朝目が覚めると、私の枕で猫が寝ていることもありました。
たいていの場合、ビレットとは家族のように親しくなり、再度訪れる際には再び泊めてもらいます。
何度も繰り返し滞在させてもらったホストファミリーからは、娘さんの高校の卒業式に招待されました。
これは家族の一員として認めてくれたという光栄なことで、感動の一日でした。
アメリカらしくスタジアムで開催された盛大な卒業式。
自分の子どもたちに観覧席から大声援を送る保護者たち。
滞在期間は短いながらも何年にもわたって再会する中で、彼らの人生に少しだけ家族のように関わることがあります。
そしてそれは北米フリンジがもたらす、とてもあたたかい宝物のひとつです。
ハプニングさえも醍醐味、それがビレットライフ
しかしごく稀に、やや残念と言わざるをえないビレットにあたることもありました。
とある高齢の女性の家に滞在した時のこと。
ビレットには食事を提供する義務はないのですが、私が日本人だからなのか、良かれと思って毎日「サッポロ一番味噌ラーメン」とツナ缶をテーブルに置いてくれたおばあちゃん。
私は戸惑いつつも、感謝の意を表すためにも毎日それらを食べていました。
猫みたいに……。
おばあちゃんはとても変わっていて、突然怒鳴られたこともありました。
そういう時はビクビクしながら息をひそめて暮らします……。
またある時は、地獄のように汚い部屋にステイし、台所に積まれていた大量の洗い物を2時間かけて洗ったこともありました。
あれはいったい何週間分だったのだろう……。
彼女が一生懸命に準備したという私のベッドはリビングにあり、砂か何かでざらざらしていました。
でもやっぱり彼女も優しいひとでした。
またカルガリーでのある時。
8月の私の誕生日をサプライズで祝ってくれたのは、子どもの教育に携わる同年代の女性でした。
あまりおしゃべりではない、どちらかと言えばクールな性格の彼女は料理上手で、ある日「ちょっと料理するから手伝う?」と私を呼び、キッチンで一緒に料理をしました。
いくつもの料理を作りながら同時にケーキも焼いて。
北米の人たちは本当に甘いものが好きなので、何も不思議に思わなかった私。
ところが食後にそのケーキにロウソクを立てて、クールな彼女がちょっとはにかみながら私にケーキを運んでくれたのです。
「ちょっと早いけどバースデイケーキ。一緒に作ったからさすがにすっかりバレてると思ったけどね。」と。
あの時の感激は一生忘れることができません。
ビレットを通じて育まれるアーティストとホストの絆
ビレットを提供するひとたちには、謝礼として何枚かの観劇チケットが与えられます。
演劇を愛し、アーティストやフリンジをサポートしたいと願うひとたちが、北米ではボランティアとして多大な貢献をしてくれています。
ただでさえ過酷なフリンジの日々。
非日常を日常として生きなくてはならないアーティストたちにとって、故郷や家族から遠く離れ、ともすれば孤独にもなるツアーの中で、ビレットの存在はとても大きく、心身を健康に保つことができるかどうかも、生活環境に左右されます。
私の場合はホームステイ中は基本的には自炊です。
スーパーで食材を買い、ビレットのキッチンを借りて料理をします。
経済的にも健康の面でも、北米で外食を続けることは危険です。
私が日本食を料理してビレットに振る舞うこともあれば、料理上手なビレットに出会い、食事をおなかいっぱいにごちそうになったり、ビールやワインを一緒に飲んだりすることもあります。
どんな国でも、どんな人でも、食事をともにすることで距離が縮まることはとても多く、そのために私は外国に行く際には以下の3つのことばをまず最初に覚えます。
・ありがとう!
・おいしい!
・乾杯!
これを現地の言語で言えば、まず間違いなく仲良くなれます。
さて、今回もお楽しみいただけましたでしょうか?
お読みくださってありがとうございました。
次回は、子どものための演劇事情についてもご紹介できればと思います。
各地で水害にあわれた方々に心よりお見舞い申し上げます。
私の故郷も大きな被害にあいました。
皆さまのご安全と、町の復興を願っております。
どうか少しでも心安らぐ時間がありますように。